AFMにはいくつかの操作モードが提案されていますが, 生体分子のような柔らかい試料に対しては通常タッピングモードと呼ばれる方式がよく使われています。高速AFMもタッピングモードを採用しています. タッピングモードでは, プローブが付いたカンチレバーを圧電素子により機械的共振周波数で振動させ, プローブが試料に間欠接触したときのカンチレバーの振動振幅の変化を光てこ法により検出します. プローブを試料に対してラスター走査しながら, PIDフィードバック制御によりカンチレバーの振動振幅が設定値と等しくなるようにZ方向の圧電素子の伸縮を制御し, プローブと試料間距離が一定に保ちます. このとき, 2次元走査の各ピクセル位置でのPID信号をコンピュータに取り込むことで表面形状像を得ることができます. AFMのフレームレートを上げるには, AFMに含まれる要素を全て高速に動作するようにしなければなりません. これまでいくつかの研究グループにより, AFMの時間分解能の向上と生体試料のダイナミクス観察が試みられてきました. 1989年には血液凝固因子のひとつであるフィビリノーゲンが重合過程する様子を約8秒のフレーム間隔で観察した例も報告されています1). 1990年代には, 数秒程度のイメージング速度で生体分子をAFM観察した例が数多く報告されましたが, 脆弱な生体分子の機能を損なわずに, かつ, 生体分子が機能する時間スケール(通常, 1秒以下)でイメージングすることに成功したグループはありませんでした. 金沢大学の安藤敏夫教授はタンパク質の構造ダイナミクスを観察できる装置を目標に, 1993年頃からAFMの高速化に着手し, 2001年にマイカ基板に吸着したタンパク質の動態を80ms/frameで画像化することに成功しました2). 内橋も2004年に安藤グループに参加し高速AFMの改良と応用に取り組んできました. 低侵襲化や高分解能化, 操作性の向上といった高速AFMの技術改良にの結果, 2008年頃に生動態や分子の拡散・集合過程などのダイナミクスを高速撮影できる装置が2008年頃に完成しました3). 以来多くの応用研究が世界中で行われています4). どんな観察ができるかは
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1. B. Drake B, C. B. Prater, A. L. Weisenhorn, S. A. Gould, T. R. Albrecht, C. F. Quate, D. S. Cannell, H. G. Hansma & P. K. Hansma, "Imaging crystals, polymers, and processes in water with the atomic force microscope" Science Science 24, 1586–1589 (1989).
2. T. Ando, N. Kodera, E. Takai, D. Maruyama, K. Saito & A. Toda, "A high-speed atomic force microscope for studying biological macromolecules", Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 98, 12468–12472 (2001).
3. T. Ando, T. Uchihashi & T. Fukuma, "High-speed atomic force microscopy for nano-visualization of dynamic biomolecular processes", Prog. Surf. Sci. 83, 337–437 (2008).
4. T. Ando, T. Uchihashi & S. Scheuring, "Filming biomolecular processes by high-speed atomic force microscopy", Chem. Rev. 114, 3120–3188 (2014).